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逡巡のとりどり@京都


by anzu-ruyori
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戦争は気の毒な人々を何万となく製造しながらすすんでゆく★竹内浩三★筑波日記

昭和19年

 7月18日 【火曜日】

 やりたくなかったので、朝の剣術はやめた。
 かけ足で、汗であった。
 ひるから、宮城島信平のアトをついで、経理室当番に上番した。

 夜、本部のうらの車庫で映画があった。
 まず、パラマウントのマークが写し出されたのでびっくりした。
 ポパイであった。”I YAM WHAT I YAM" と云うのであった。
 その次が「暖流」であった。

 中井利亮からたよりがきていた。

 7月19日 【水曜日】

 西にはしり、東にはしり、茶をわかし、炎天のもと、汗みどろ。

 経理室当番である。きょうから、十三時から十五時まで午睡を行うことになった。
当番も寝よと云うが、寝る場所もないし、そう云っておきながら、ちょっと酒保へ行ってきてくれぬか、スイジへ行ってこいと云うのだから、寝るわけにもまいらぬ。

 あちこちまわっている途中、宮城島信平に出会うと、どうや、ビジイかなどと、英語まじりで云う。信平はロスアンゼルス生れであるから、英語をまぜて、ぼくにはなしをする。
うん、目がラウンドや。

 きょうもまた映画であった。漫画でチャップリンのような男が戦争に行くはなしで愚劣きわまりなかった。

 「将軍と参謀と兵」で、これはすぐれた映画であった。
 「母なき家」で、こんなつまらない映画もめずらしい。途中でみるのをやめて、当番室にかえって、蚊にくわれていた。

 7月20日 【木曜日】

 ひまをみて、エミール・ウテッツの『美学』を読みだしたが、難解だ。
美学などと云うものはたいてい難解で、その上つまらないものが多い。

 岡安の伯母さんからハガキがきて、松島博の召集のことをしらせてあった。
姉からはなんとも云ってこないが、姉も気の毒である。

しかしながら、こんな気の毒は、日本中どこへ行ってもざらにあることで、
ああ戦争は気の毒な人々を何万となく製造しながらすすんでゆく。

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宮城島信平さん「どうや ビジイか」
浩三さん 「うん 目がラウンドや」

日本陸軍の中でこんな敵制語の会話があったなんて!ゆかいな戦友がいてよかったね。
by anzu-ruyori | 2012-07-21 00:23 | 浩三さん(竹内浩三)