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逡巡のとりどり@京都


by anzu-ruyori
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みちのく民話まんだら うたうひと  



みちのく民話まんだら うたうひと  _f0032106_22594670.jpg

東北記録映画 三部作 「なみのこえ」「うたうひと」をみた。

「うたうひと」は、東北の民話を「語るひと」 と 「聞くひと」を 静かに撮影した作品。

私は、その姿に釘づけになった。「魂 もっていかれた」。ずっと きいていたいと思った。

「語るひと」は三人。
伊藤正子さんは、ちょっとこわそうなおばさん。
佐藤玲子さんは、ちっちゃなおばあちゃん。子どものころ「母ちゃん 昔かたって 昔かたって」といって聞いたお話を語る。
佐々木健さんは、70代の大きなおじさん。40代半ばになって、とつぜん子どもの頃にきいていたお話を思い出したそうだ。その大きな体の中にしみこんだお話が「あふれてきて」語りだしたという。

みなさんが100~200以上の昔話をかたることができるそうだ。

「聞くひと」は小野和子さん。40年以上にわたって、東北の昔話を収集されている。
その穏やかなまなざしと静かな声が、語るひとによりそっている。

この映画には語る人の言葉の字幕はない。「字幕があったほうがいいのでは」という人もいたが、私は不要だとおもった。
ききとれなかったり、方言が、わからなくて、お話がわからなくなっても、まったく気にならなかった。ただ、その語りにゆられているのが気持ちよかった。
きっと、子どもがおばあさんにお話をきいていたときも、よくわからない言葉があってもそれをいちいち尋ねることなく、語りのリズムにゆられてきいていたのだと思う。

みちのく民話まんだら うたうひと  _f0032106_22140975.jpg

小野和子さんの「みちのく民話まんだら、民話のなかの女たち」を読んだ。(園部図書館 蔵書)
これは、小野さんがお聞きした民話を採録し、「あと語り」として小野さんの解説がつづく。

「うたうひと」でも語られている「猿の嫁ご」は、小野さんがはじめてきいた民話。

::::::::::::::::::::

「猿の嫁ご」

  むがすむがす 娘三人もった親父ぁいで、田さ水掛けにいったど。
  掛けても掛けても 水、溜まんねぇぐて、
  「これでは田植えもできねぇ。だkれか、この田さ水掛けてけねぇべかな。
   娘3人あるから、ひとりくれてやってもいいが・・・」って独りごと言ったっつも。

  したっけぇ、ほれ 山から猿ぁ 出はってきて、

 「おれ、水掛けて、いいあんべぇにしてけっから」って
  たちまち、さんぶりと水掛けてくれたどっしゃ。

:::::::::::

親父は猿に娘を嫁にやると約束してしまう。家に帰って 娘に「お前、猿のどこさ嫁ってけねぇが」ときくが、
上の娘も中の娘も いやだという。ただ、末娘が承知して、迎えにきた猿といっしょに山にいってくれた。

やがて 節句がきて 里帰りとなり、娘は猿に餅をついて親父さまにもってかえるという。
猿は、一生懸命 餅をつく。娘はその餅を臼ごと 猿に背負ってもってかえれという。
猿はよしわかったと、臼を背負って山をおりていく。途中、川っぷちの藤の花が見事に咲いている。

:::::::::::

「あらまあ たまげて美しいこたあ。この花採っていったら、おら家の親父つぁん、なんぼか喜ぶべなぁ」

「ほだら、採ってくべや」

猿は背負っていた臼を下ろすべとしたら、

「あらぁ、そだなどごさ置いたら、おら家の親父つぁん、土臭ぇつって、食ねべな。
 臼背負ったまんま、採ってござい」

っていうから、猿は、臼 背負ったまんま 藤の木さのぼっていったどしゃ。

「この枝、いいかあ」
木の上から聞くと 娘は
「もすこし上の、いいなぁ」
「んでぇ、こいついいかぁ」
「もすこし上の、もっといいなぁ もすこし。もすこし・・・」

猿は上へ上へと、のぼっていったれば、臼の重み、猿の重み、藤の枝、ぼっきんと折れて、下の川さ落って、そのまんま流れていったどしゃ。

流されながら、発句、詠んだっつもなぁ。

 猿川に落ちる命は惜しくない
 あったらお前を後家にするがや

娘はそれを聞いて
「ばか猿やぁ だれぇ 後家になるけやぁ」
って どっとと家さ帰っていったどしゃ。

 こんでよんつこもんつこ さけたどしゃ

::::::::::::::::::::::::::

面白いはなしだけど、流されていく猿が、あわれで、ちょっとひどい娘だなと思わないではなかったが、
おばあちゃんの「ばか猿あ だれぇ 後家になるけやぁ」がとってもうれしそうなので、笑ってしまった。

小野和子さんが、「猿がかわいそうね」というと、
語ってくれたおばあさんは、不思議そうな顔をして

「おれだってもやぁ、何べん 実家さ逃げてっ帰りたかったかしゃねんぞ」

と、16歳で「見たこともねえ」相手に嫁にきた苦労を語った。

小野さんは
「嫁ぎ先で、好き放題いい、猿を川につき落として『とっとと家さ帰った』という娘の行動は
おばあさんの現実には一度も叶えられなかった夢の実現だったのではないか」
と悟ったのだ。

民話は、ただの空想物語でなく、民衆の願望や心の解放や為政者への嘲笑や自然への畏敬など、土地と風土に育まれて長い年月に醸造されてきたものなのだ。

「食わず女房」と過食症の中学生のことや、がダルカナル島から生還したおじいさんの不思議な夢の話、まるで現代のスプラッターホラー「戸ぉ あけろ」のお話など、とても心にしみわたっている。


東北に民話をききにいかなくては!


小野和子さんの震災後の民話についてのお話は以下に。

明日への言葉 津波を伝える民話の力1↓
http://asuhenokotoba.blogspot.jp/2013/11/blog-post_7.html

明日への言葉 津波を伝える民話の力2↓
http://asuhenokotoba.blogspot.jp/2013/11/2.html



 









by anzu-ruyori | 2017-04-26 00:21 |