逡巡のとりどり@京都


by anzu-ruyori
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査閲 竹内ノ号令ハシマリガナイ★竹内浩三 筑波日記

「五月のように」さんより転載させていただきます。
http://www.h4.dion.ne.jp/~msetuko/tkozo/takeutisakuhin.html

なお、竹内浩三著 小林察編 「日本が見えない」(藤原書店)より
筑波日記 全文と写真版を参照させていただいています。

http://www.fujiwara-shoten.co.jp/shop/index.php?main_page=product_info&products_id=510&cPath=177_222

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1944年 昭和19年

2月19日
 どうにでも、なるようになれと、考える日であった。

2月20日

 あした、練習部長の査閲があるので、その軍装けんさが、朝あった。
 ひるからは、大掃除。

2月21日

 査閲があると云うので、一時間も早く起きて、いそがしいこと、この上もない。そんなに大さわぎしたので、どんな査閲かと思ったら、はなはだあっけない。査閲とか検査などはたいていこんなもんで、泰山鳴動して鼠一匹と云うヤツだ。ひるからは、結局なにもなかった。こんなことはめずらしい。

2月22日

 夜、号令調整。
 竹内の号令はしまりがないと。
 枯枝のすいたところに、星が一つ。

 明日は、また外出できる。表でみると、班内でぼくが一番よく出ている。
 一日中、銃剣術。ひるから、中隊の試合。10はやって2本勝つ。一番びり。

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査閲
(1)実地に調査して検閲すること。
(2)軍事教練の成績を実地に調べること。

「査閲」で検索すると、面白い文章を発見した。
太宰治である。

太宰さんも軍隊には、そぐわないヒトであったろう。

「鉄面皮」

(前略)
先日も、在郷軍人の分会査閲に、戦闘帽をかぶり、巻脚絆をつけて参加したが、私の動作は五百人の中でひとり目立ってぶざまらしく、折敷(注 オリシキ 左足のひざを立て、右足を折って腰を下ろした構え)さえ満足に出来ず、分会長には叱られ、面白くなくなって来て、おれはこんな場所ではこのように、へまであるが、出るところへ出れば相当の男なんだ、という事を示そうとして、ぎゅっと口を引締めて眥を決し、分会長殿を睨んでやったが、一向にききめがなく、ただ、しょぼしょぼと憐憫を乞うみたいな眼つきをしたくらいの効果しかなかったようである。

私は第二国民兵の、しかも丙の部類であるから、その時の査閲には出なくてもよかったらしいのであるが、班長にすすめられて参加したのだ。(中略)
私はその日は、完全に第二国民兵以外の何者でもなかった。しかも頗る、操作拙劣の兵である。私ひとり参加した為に、私の小隊は大いに迷惑した様子であった。それほど私は、ぶざまだった。

けれども、実に不慮の事件が突発した。査閲がすんで、査閲官の老大佐殿から、今日の諸君の成績は、まずまず良好であった。という御講評の言葉をいただき、
「最後に」と大佐殿は声を一段と高くして、「今日の査閲に、召集がなかったのに、みずからすすんで参加いたした感心の者があったという事を諸君にお知らせしたい。まことに美談というべきである。たのもしい心がけである。もちろん之は、ただちに上司にも報告するつもりである。ただいま、その者の名を呼びます。その者は、この五百人の会員全部に聞えるように、はっきりと、大きな声で返辞をしなさい。」
 まことに奇特な人もあるものだ、その人は、いったい、どんな環境の人だろう、などと考えているうちに、名前が私の名だ。

「はあい。」のどに痰がからまっていたので、奇怪に嗄れた返辞であった。五百人はおろか、十人に聞えたかどうか、とにかく意気のあがらぬ返事であった。

何かの間違い、と思ったが、また考え直してみると、事実無根というわけでもない。私はからだが悪くて丙の部類なのだが、班の人数が少なかったので、御近所の班長さんにすすめられて参加する事になったのだ。枯木も山の賑わいというところだったのだが、それが激賞されるほどの善行であったとは全く思いもかけない事であった。

私は、みんなを、あざむいているような気がして、浅間しくてたまらなかった。査閲からの帰り路も、誰にも顔を合せられないような肩身のせまい心地で、表の路を避け、裏の田圃路を顔を伏せて急いで歩いた。その夜、配給の五合のお酒をみんな飲んでみたが、ひどく気分が重かった。

(後略)

青空文庫より
http://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/2284_15076.html
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by anzu-ruyori | 2012-02-21 01:04 | 浩三さん(竹内浩三)