逡巡のとりどり@京都


by anzu-ruyori
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空ヲトンダ日 ★竹内浩三 筑波日記

1944年 昭和19年

3月1日 【水曜日】

 非常召集がかかった。四時。
 冷たい風のように、星が消えていった。

 きょうは、水曜で休みである。
永吉一等兵が外出するので、その交替に炊事へ行った。
炊事ははじめてだ。白い作業衣の上にゴムのエプロンをした。

 ジャガイモを洗った。
 谷田孫平がきた。きょうは外出がないから、中隊へ帰ってこいと云った。
中隊はなにをしとると聞くと銃剣術であった。
 
 ひるまで帰るまいときめた。

 サトイモを切った。
 こんにゃくを切った。
 ダイコンを切った。
 炊事とは、ものを切ってばかりいる所とわかった。

 ひるめしをどっさり喰った。喰って、ぶらぶら帰ってくると、
 いままで何をしとった、すぐ用意をせい。
 グライダーに乗るんじゃ。

 生まれて、はじめての、ぼくの空中飛行がはじまる。

 ごちゃごちゃと、緑色のベルトのついている落下傘を着けた。
 勇ましい気になった。同乗者十三人あまり。よい数でない。 

    赤い旗が振られた。
    がつんと、ショックがあった。
    すると、枯草が、ものすごい速さで流れはじめた。
    うれしくなって、げらげら笑った。
    枯草が沈んで行った。
    この、かわいらしい、うつくしい
    日本の風土の空をアメリカの飛行機は飛んではならぬ。

    空ヲトンダ歌

  ボクハ 空ヲトンダ
  バスノヤウナグライダァデトンダ

  ボクノカラダガ空ヲトンダ
  枯草ヤ鶏小屋ヤ半鐘ガ
  チイサクチイサク見エル高イトコロヲトンダ
  
  川ヤ林ヤ畑ノ上ヲトンダ
  アノ白イ烟ハ軽便ダ

  ボクハ空ヲトンダ

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 思いがけないところに、富士山が現れた。
 ぐっと廻ったかと思ったら、霧の中から、筑波山が湧いてきた。

 飛行機のロープを切った。高度八百米。

 夜、演芸会。演芸会にはいつも出る。
 わい談長講一席。酒が上って、いささか呑んだので、きげんもよい。

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3月1日、浩三さん、初飛行 おめでとう!

夜、手帳をひらいて、もし、私が浩三だったら
まず、空を飛んだことをかくだろうに、
きちんと、その日のはじめからの出来事を書いていくところが、
シナリオ的であり、また、この日を記録しておきたいがためにだろうか、
空を飛んだよろこびをぐっとおさえて、時系列で書かれている。

そして、その歓喜が「空ヲトンダ歌」として詩になった。

グライダアの中で、ほんとに「ゲラゲラ」笑っていたのだろうか、浩三は。
ほんとに、へんな人だなあ。

この日の日記を読むと、私は飛行機が飛び立つときのワクワク感を思い出す。
「ゲラゲラ」笑いはしないけど、ワクワクして「ニヤニヤ」する、いつも。

7月27日までの「筑波日記」には、この日のほかには、飛行訓練のあった記載はない。
12月にフィリピンに向かうまでに、もう一度か二度、「空ヲトンダ」ことはあったのだろうか?

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竹内浩三「筑波日記」は、

「五月のように」さんより転載させていただきます。
http://www.h4.dion.ne.jp/~msetuko/tkozo/takeutisakuhin.html

なお、竹内浩三著 小林察編 「日本が見えない」(藤原書店)より
筑波日記 全文と写真版を参照させていただいています。

http://www.fujiwara-shoten.co.jp/shop/index.php?main_page=product_info&products_id=510&cPath=177_222
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by anzu-ruyori | 2012-03-01 14:28 | 浩三さん(竹内浩三)