逡巡のとりどり@京都


by anzu-ruyori
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もっと臭い、もっとけったいなにおいのものがいくらもあるぞよ★竹内浩三 筑波日記

昭和19年

3月23日 【木曜日】

 朝起きると、はだかで出て、
 乾布まさつをして、点呼が
 すむと、かけあししてから手
 りう弾投げである。

 朝は、事務室で、帳面とじをした。

 操縦見習士官のことは、お流れになったと云う。定員に足りなかったので
 募集してみたけれども、定員に満ちたから、用はないと云うのである。
 スウスウ鼻から、空気がぬけてゆく気がした。

 ひるから、ジャガイモ畑の肥まきであった。肥たごを、一人で二つかついだら、
ふらついて、ひっくりかえしそうになったので、二人で一つ運ぶことにした。

それでも五百Mもある便所と畑のあいだを、なんども往復すると、カタにこたへた。

眼の前で、ピチャピチャはね上る、黄色い水を見ながら、
これほど臭いものは、またとはなかろうと思い、そのことを、
先棒かつぎの木俣に云うと、

このにおいは、罪がのうてええぞや、世の中には、もっと臭い、
もっとけったいなにおいのものが、いくらもあるぞよと云った。

 木俣は三十一歳の医学士である。
ぼくは、ばからしくなって、カラカラと笑ってばかりいた。

 夜、木俣が、木下の本でロシヤ語を勉強しようと思うと云いだした。

どうせ、一兵卒ですごすのであってみれば、ぼくも、ロシヤ語でもやってみようかとも考えた。

4月に初年兵が入ってくれば、すこしはひまもできるだろうし、なにかまとまった勉強をしようかと思う。こうして、ぼうと暮らしているのは、やりきれない。


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木俣さんは、別のときに「木俣老人」と書かれているけれど、31歳だったのですね。

「このにおいは、罪がのうてええぞや、世の中には、もっと臭い、
もっとけったいなにおいのものが、いくらもあるぞよ」は、名言。

「肥たごかき」は、たいへんですね。

1960年の映画「裸の島」の孤島での音羽信子の肥たごかきを思い出します。
http://nihon.eigajiten.com/hadakanosima.htm

昨年公開された「一枚のはがき」で、大竹しのぶの肥たごかきのシーンは、
まさに、音羽信子さんへのオマージュでしたね。
http://www.ichimai-no-hagaki.jp/

「一枚のはがき」は、私には無念な映画でしたが、新藤監督のご長命は心から祈りたいと思います。
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by anzu-ruyori | 2012-03-23 13:50 | 浩三さん(竹内浩三)