逡巡のとりどり@京都


by anzu-ruyori
カレンダー
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30

東京へ行こう★竹内浩三★筑波日記

5月27日 【土曜日】

 田中准尉にたのまれて、こんど、又変わったアメリカの飛行機の標識をかいた。

 きょう乾省三が面会にくるので、臨外をくれとたのんだ。まえからたのんであったのでくれた。
 (臨外・・・臨時外出)

 ひるめしを半分喰って出た。吉沼へ行く途中で、自転車にのった乾省三に会った。
 十一屋書店の二階へ上りこんだ。
 乾省三のカバンの中から、まるで、手品つかいのそれのように、たべものが出てきた。

 いなりずし、うなぎ、のりまき、にぎりめし、パイカン、キャラメル、リンゴ、ドーナツ、バター、かんぴょう、たけのこ、しいたけ。
 たべていた。

 十一屋がサイダーと親子丼をごちそうしてくれた。


 東京へ行こう。

 夕方、バスにのった。吉沼の曲がりかどで、家の軒がバスの窓ガラスを割った。

 破片が、ぼくの肩へこぼれた。宗道の山中さんでお茶を飲んだ。

 東京へきた。もう、夜なかであった。
 魚が水にかえったように、ぼくは、東京にいた。

 椎名町の大岩へ行った。たべものを出して、おそくまで、電気がついていた。

5月28日 【日曜日】

 窓を開けると、青空と、くるみの青葉であった。

 池袋で映画を見た。「怒りの海」、今井正演出。題名と出演者につられた。
 いったい、一生懸命つくる気でつくったのであろうか、いやで、いやでならないが、まァつくったと云わんばかりであった。エサが悪いとこんなものしかつくれないのか。

 どえらい、いくさをしている国の首都である。
 くらやみでは、アイビキが行われ、あかるみで、どえらい大金をもうけているやつがいる。
 月に肉の配給が五十モンメとかで、どこかで牛の舌を十皿もひとりで平らげている。
 いろんなムジュンがあるであろうが、要は、戦争に勝つことだ。

 ニッポンの国だけは、ぜったいに亡びないとは、キミ、どう考えてもムシがよすぎはしないか。
 亡ぼさないためには、それだけのことは、しなければだめだ。

 池袋のまちをもっと見たかったけれども、時間がなかった。汽車にのった。

 となりに坐った若い衆と俳句のはなしをした。たいてい相手がしゃべっていた。

 宗道の山中さんで、ちょっとキュウケイした。吉沼まであるいた。十一屋旅館で夕食をした。

 酒を飲みながら乾省三とはなしていた。よくまァ、こんなところまできてくれたと、
乾省三をありがたいと思った。

 十一屋書店へ姉から小包がきていた。こないだ送った日記のことが書いてあった。梅肉エキスやら、ジンタンやら、ふんどしやら、万金丹やら、針やら、糸やら、小包に入っていた。ありがたいことと思った。津村秀夫の『映画戦』も入っていた。
香水も入っていたが、これはどうしたらよかろう、と思った。

 乾省三は、営門のところまで送ってきてくれた。

 半月が出ていた。乾省三は、手で電気が起る懐中電燈をもっていた。ぼくは途中で野グソをした。

省三をよい人だと、しみじみおもった。

 中隊へ二十三時半にかえった。事務室で、週番下士官や当番がまだおきていた。ぼくのためにおきていてくれたのかと思ってキョーシュクしたらそうでなかった。

ブドー酒を飲んでいた。ふところのするめを出して、ぼくもブドー酒を飲んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一泊だけのあわただしい東京行。

東京が見られてよかったね、浩三。


乾省三さんは、竹内呉服店の番頭さん。

敏之助さん(浩三さんのお兄さんの子ども、甥だが、兄弟のように育つ)のいた京都の部隊にも
面会にいっていたと、縁者の方よりお聞きしました。
上官への手みやげに、服地などをもっていかれたとか。

戦後、竹内家の縁者が上京する際に下宿を探したり、
呉服店がなくなったあとも、「番頭」として主家に仕えた人だいう。
省三さんは、「浩三さんは、自分から飛行部隊に志願していったのだから」といわれていたそうです。

「臨外」だったのに、外泊までできたのは、省三さんの手土産のおかげか。

お姉さんからの香水のことは以下に。
http://miteikou.exblog.jp/8157098/

お姉さんのお嬢様っぷりがわかるエピソードだ。

出征された夫さんへの手紙を、なにかの本で少し紹介されていたが、ものすごいラブレターだった。
たしか、自分の扇子を贈るので、自分だとおもっていつも持っていてくださいとか。

ことし、95歳になられるこうさんの健康を祈りたい。
[PR]
by anzu-ruyori | 2012-05-28 04:25 | 浩三さん(竹内浩三)