逡巡のとりどり@京都


by anzu-ruyori
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自分にあった仕事をあたえられたら、死ぬるともそれをやるよ★竹内浩三★筑波日記

6月19日 【月曜日】

 本部のうらに将校集会所ができて、その庭つくりの仕役に出た。

 谷田孫平がその静かな眼をいきいきとさせて云うのである。

 満期したら、北海道で百姓をするんだ。
 牛を飼うんだ。毎朝牛乳を飲むんだ。チーズやバタやす乳を醸るんだ。パンを焼くんだ。
 ジャムをつくるんだ。キャベツやトマトも植えるんだ。
 ひろいみどりの牧場を見ながら、サラダをたべるんだ。

 谷田孫平に、敵のたまがあたらぬよう、このたのしい夢が戦死しないよう祈りたい。

 おれは、こうなんだ。やりたいことがいろいろあるんだ。

 その一つ。志摩のナキリの小学校で先生をする。
花を植え、音楽を聴き、静かに詩をかき、子供とあそぶ。
 これがおれとして、一番消極的な生き方だ。たまに町に出て、映画などを見る。
すると、学校の友だちが、その映画で、華々しく動いている。みじめな道を選んだものだ。そう考えて、じぶんを淋しく思うようなことはなかろうか、それをおそれる。

 も一つ。南方へ行くんだ。

 軍属になって、文化工作に自分の力一ぱい仕事をするんだ。
 志摩のナキリでくすぶっているよりは国のためにいいことだと思う。おれだって、人に負けないだけ、国のためにつくすすべはもっている。自分にあった仕事をあたえられたら、死ぬるともそれをやるよ。

 でも、キカン銃かついでたたかって死ぬると云うのは、なさけない気がするんだ。こんなときだからそんなゼイタクもゆるされないかもしれぬ。
 自分にあたえられた仕事が、自分にむいていようがなかろうが、それを力一ぱいやるべきかもしれぬ。しかし、おれはなさけないんだ。

 孫さん。お前おれの気持ちわかるかな。

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この日の日記が、私は好きでよく読む。
孫平さんの夢 浩三さんの夢が、きらきら輝いている。

谷田孫平さんは、百姓になれただろうか。

志摩の波切の映像を、この間いった「国立民俗学博物館」でみた。
戦後の映像だったけれど、入り江になだれ込むように瓦屋根が連なり、豊かな海の幸を
海女たちが採取していた。そこに、いたかもしれない浩三さんを思った。

 軍属なって、南方で「文化工作」して国のためにつくす。フィリピンにいったとき、そんな夢を
思い出すこともあっただろうな。



 
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by anzu-ruyori | 2012-06-19 11:55 | 浩三さん(竹内浩三)